美しが丘個人邸

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本プロジェクトは、建築家の明確な意匠思想と、オーナー様の内在的な色彩感覚を丁寧にすり合わせることからスタートしました。最初の工程として選んだのは、都内に点在する実際の施工事例の見学です。カタログやサンプルでは決して伝わらない、実寸の壁面がつくり出すスケール感、光の入り方による色の変化、素材の重なりが生む奥行き。それらを実際の空間で体感していただくことが、色決めにおいて何よりも重要だと私たちは考えています。
今回の住宅では、外壁に杉板本実型枠コンクリートを採用されており、その表情豊かな打ち放しの壁面に寄り添う素材として、グレー系レンガタイルを軸に検討を進めました。
無機質でありながらも木の痕跡を残すコンクリートの肌に、焼きものならではの温度を重ねていく。そのバランスは、わずかな色味の違い、目地の幅、表情の揺らぎによって、大きく印象が変わります。
現地見学では、レンガタイルの色合いだけでなく、ブリック目地の仕上げ感、太目地が生み出す陰影のリズム、遠景と近景で異なる見え方まで、一つひとつご説明しながらご覧いただきました。
小さなベニヤ板に貼られたサンプルでは決して得られない「壁としての存在感」を体感していただくこと。それは、色決め以前に欠かすことのできない大切な工程です。
私たちにとっては見慣れた素材であっても、施主様にとっては人生で初めて向き合うレンガタイルという方がほとんどです。だからこそ、違和感を感じる可能性のある要素はすべて現地で確認し、ご自身の感覚で「しっくりくるかどうか」を確かめていただくことを何よりも大切にしています。
最終的に選ばれたのは、わずかにブルーを帯びたグレーのレンガタイルでした。
杉板型枠の打ち放しコンクリートと並んだとき、互いの質感を引き立て合い、無機と有機が溶け合うような美しいコントラストを生み出しています。焼成による自然な焼きムラ、化粧土の擦りムラが残る手づくりのボディは、ひとつとして同じ表情を持たず、壁面全体に奥行きある表情を与えています。
このレンガタイルは、外壁だけでなく内装のトイレ壁にも採用されました。間接照明から柔らかく落ちる光が、レンガの凹凸に陰影を描き出し、まるで上質なギャラリーの一角のような静謐で贅沢な空間を演出しています。日常の中に、静かに心を満たす時間が流れる場所となりました。
施工においては、今回採用された「駒返し張り」という珍しい張り方に、当社の職人も現場で割付を重ね、何度も微調整を行いながら仕上げていきました。一枚一枚のレンガが壁面のリズムとなり、建築全体の表情を形づくっていく。その工程は決して効率だけで語れるものではなく、職人の経験と感覚が問われる仕事でもあります。
完成した壁面を前に、建築家とオーナー様、そして施工に携わった私たち全員が、静かにうなずいた瞬間がありました。
この壁は、最初に見学した施工例の記憶と、オーナー様の色彩感覚と、建築家の意匠思想と、職人の手仕事が重なり合って生まれた、唯一無二の風景です。
記憶に残る豪邸とは、単に大きさや豪華さだけで語られるものではありません。
そこに流れる時間、壁に刻まれた素材の物語、住まう人の美意識が静かに息づく場所であること。
この住宅は、まさにそのすべてを内包した一棟となりました。
田井勝馬建築設計工房様 ウェブサイト 建築事例 美しが丘の家「I邸」
Outline
- 名称
- 美しが丘個人邸
- 所在地
- 神奈川県横浜市青葉区
- 設計
- 田井勝馬建築設計工房
- 施工
- システムシーツ-
- 竣工
- 令和3年7月
- 使用タイル
- 個人邸特注生産品 手掛化粧土擦り仕上げ二丁掛60x210x15mm
- タイル施工
- TLCアソシエイツ
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