Works
実績紹介

NAKASU GIO TERRACE

オレンジ系の原料を二次加工することによってクラシカルに仕上げた
NAKASU GIO TERRACE

Message

2013年(平成25年)春から参加させて頂いたプロジェクトビルが竣工し、テナントビル入居後のファサード写真が出来上がった。様々なプランを思考し、検討を重ね、焼き物の面白さを再認識したプロジェクトとなった。建築全体のイメージから、新たにレンガの表情を引き出し、決して目立つことではなく素材の質感と工法を利用して柔らかい表層を創り上げた。
形状・パターン・目地・テクスチャー全ての狙いを計画的に創造し表現する。こうしたデザイナーの感性は、経過や工程を見てきているからこそ驚きでもある。多少でも自分が関われた事は、幸せなことである。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ジルコニット釉薬による「どぶ付け」加工
― レンガタイルの質感を設計するための表面技術

建築の外壁において、素材の印象を決定づける要素は「色」だけではありません。
むしろ重要なのは、光をどのように受け、どのように反射し、どのような陰影をつくるかという表面の質感です。

レンガタイルは、石材やコンクリートと同じく焼成素材であり、土・火・鉱物の反応によって形成される独特の表情を持っています。そのため単なる色面として扱うのではなく、素材の深みをどのように引き出すかという視点が設計上重要になります。

その質感設計のための技術の一つが、ジルコニット釉薬による「どぶ付け」加工です。

ジルコニットとは何か

ジルコニットとは、ケイ酸ジルコニウム(ZrSiO₄)を主成分とする鉱物原料で、陶磁器やタイルの釉薬において「白濁剤(オパシファイヤー)」として広く用いられています。

透明な釉薬にジルコニットの微粒子を加えると、釉薬内部で光の散乱が生まれます。その結果、完全な透明ガラス層ではなく、わずかに白く霞んだような柔らかな表面が形成されます。

この現象は単なる着色とは異なり、釉層内部の構造そのものが変化することで生まれるものです。そのため、塗装や顔料による色表現とは違い、奥行きを感じる質感が生まれるという特徴があります。

外装レンガタイルにおいてこの釉薬を用いると、強い光沢を持つ表面ではなく、光をやわらかく拡散する落ち着いた表情が生まれます。建築においてこの「光の柔らかさ」は非常に重要であり、壁面が環境の光と調和することで、建築全体の印象が大きく変わります。

「どぶ付け」という施釉方法

ジルコニット釉薬は、一般的に**どぶ付け(ディッピング)**という方法でタイル表面に施されます。

どぶ付けとは、成形されたタイル素地を釉薬スラリーの槽に直接浸漬し、表面全体に釉薬層を形成する方法です。スプレーや刷毛塗りとは異なり、釉薬が均一に付着しやすく、素材の微細な凹凸にまで釉層が入り込むため、焼成後には自然で安定した質感が現れます。

焼成工程では、釉薬中のガラス成分が溶融して表面に薄いガラス層を形成し、その内部に分散したジルコニット粒子が光を散乱させます。これにより、完全な光沢でもなく、完全なマットでもない、落ち着いた半マットの表情が生まれます。

外壁として用いられるレンガタイルにおいて、この柔らかな光の反射は非常に重要です。直射日光の下でも強く光ることなく、時間帯や天候によって微妙に表情を変えるため、建築の外観に深みを与えます。

還元焼成レンガとの組み合わせ

炻器質レンガタイルの場合、このジルコニット釉薬の効果はさらに豊かになります。

還元焼成では、窯内の酸素量を制御することで、土中の鉄分が独特の発色を示します。青味を帯びたグレーや黒味のある深い色調など、酸化焼成では得られない複雑な色が生まれます。

この還元焼成による土の発色の上に、ジルコニット釉薬の白濁層が重なると、色の奥にわずかな霞のような表情が現れます。結果として、単一の色面ではなく、色の奥行きと柔らかな陰影を持つ壁面が形成されます。

このような表情は、新しい建材でありながらも、どこか時間を感じさせる落ち着きを建築にもたらします。ヨーロッパの古いレンガ建築では、風化やエフロレッセンスによって表面に自然な白化が生じることがありますが、ジルコニット釉薬はそのような自然の経年変化を意匠的に制御する技術ともいえます。

素材の時間性をつくる技術

建築材料には、それぞれ固有の時間性があります。

例えば、コンクリートは型枠の痕跡によって時間を表現します。
石材は風化によって表情を変えます。
木材は経年変化によって色を深めます。

レンガは、焼成素材であるため、土と火の反応によって最初から多層的な表情を持っています。そこにジルコニット釉薬が加わることで、素材の内部に柔らかな光の層が生まれ、建築の表面に静かな奥行きを与えます。

この技術は、派手な装飾を目的としたものではありません。むしろ、素材の持つ本来の質感を整え、建築全体の空気感を支えるための表面設計技術といえるでしょう。

他素材との相性

近年の住宅建築では、素材そのものの質感を重視する設計が増えています。特に、

コンクリート打放し

杉板本実型枠コンクリート

石材

左官仕上げ

といった素材との組み合わせにおいて、レンガタイルの質感は重要な役割を担います。

ジルコニット釉薬による落ち着いた表面は、これらの素材と並んだときにも過度に主張することなく、建築全体のバランスを整えます。光を柔らかく受ける壁面は、周囲の素材と自然に呼応し、建築の空気感を静かに支える存在になります。

レンガタイルの表情を設計する

レンガタイルの魅力は、単なる色や形ではありません。
焼成素材ならではの粒子感、陰影、光の反射、そして時間を感じさせる質感。それらの要素が重なり合うことで、建築の表面に深みが生まれます。

ジルコニット釉薬によるどぶ付け加工は、その表情を設計するための一つの方法です。
素材の持つ可能性を引き出し、建築の外壁に静かな奥行きを与えるための技術として、レンガタイルの世界では長く用いられてきました。

建築の表面は、建物が環境と対話する最前線でもあります。
その質感をどのようにつくるか。
レンガタイルという素材は、その問いに対して今も多くの可能性を持っています。

Outline

名称
NAKASU GIO TERRACE
所在地
福岡県福岡市博多区中洲
設計
BAS建築設計事務所
竣工
2014年
使用タイル
二丁掛/小口平/粗面/ジルコニット釉掛