南青山M邸

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青山通りの喧騒から一本奥へ入った、閑静な住宅地に佇む個人邸。
都市の密度と住まいの静けさが切り替わる、その境界に計画された建築である。
本計画において、建築家からの明確な要請は「外壁に、はつりタイルを使いたい」という一点に集約されていた。
求められたのは、均質で整った工業製品としてのタイルではなく、素材そのものの力を感じさせる、焼き物としての存在感であった。
採用されたのは、工場で乾燥生地の段階から一枚一枚手作業で叩き、はつり加工を施した特注タイル。
一般的なテッセラ面の割肌とは異なり、タイル中央部が山高に盛り上がる独特の断面形状を持ち、光を受けた際の陰影が壁面に豊かな表情を生み出す。
人の手によって刻まれた凹凸は、整いすぎない揺らぎをまとい、外壁全体に有機的なリズムを与えている。
色調は、レンガタイルを象徴するマンガン色を基調とした。
還元焼成によって、鉄分の赤みをわずかに残しながら、窯の中で生じる化学反応と炎の流れが複雑に絡み合い、単色では決して表現できない深みのある色合いを獲得している。
赤錆を思わせる陰り、黒鉄のような締まり、そこにわずかに残る土の温度感。それらが混ざり合い、焼き物としての力強さと静けさを同時に宿している。
建物内部の通路には、サーモンピンクの塗装壁が設えられている。
その色は単なるアクセントではなく、外部ファサードに設けられた「空気抜け」の構造と呼応する重要な要素となっている。
円筒状に貫かれた空気抜けの内部にも同じピンクの塗装が施され、外部から覗くと、焼き物の鉄色の重厚な壁体の奥から、やわらかな色彩がほのかににじみ出る構成となっている。
この円筒周りの枠もまた、レンガ土を用いた手作業の特注製作によるものだ。
外壁と同時に施工され、焼成レンガと左官、塗装が一体となった、きわめて建築的なディテールとして成立している。
側面に回ると、フラットな面状で納められたレンガ部分が現れる。
ここでは、はつり面とは異なる表情が現れ、窯変による鉄色の陰りが、瓦のようにやや柔らかな印象を与えている。
同じ土、同じ窯で焼かれた素材でありながら、仕上げの違いによってこれほどまでに表情が変化することは、焼き物という素材の奥深さを雄弁に物語っている。
完成から年月を経た現在も、レンガ部分は汚れや劣化をほとんど感じさせない。
外壁仕上げとしての性能を確実に果たしながら、建物の価値を静かに支え続けている姿は、まさに「レンガ張りの見本」と呼ぶにふさわしい佇まいである。
都市の中にありながら、素材の力と人の手の痕跡を正直に表現したこの住宅は、焼き物建材が持つ本質的な魅力を、建築として昇華させた一例といえるだろう。
Outline
- 名称
- 南青山M邸
- 所在地
- 東京都港区南青山
- 設計
- 双葉設計
- 施工
- 白石建設
- 使用タイル
- 70x150x20mm手はつり、フラットMX色
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