こぢこぢの家

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リノベーション工事に参加させていただいた。
自分の家もそうだが、室内にレンガタイルを張るという行為は、どこか呼吸が深くなるような、静かな心地よさをもたらしてくれる。
今回の舞台は、いつも抜群のセンスで建築を手がけていらっしゃる設計士、小嶋氏の自邸である。建材の既製品を選び、コーディネートするという一般的な手法ではなく、現場で素材と向き合いながら加工し、空間とともに完成させていく工法を用いることで、より建築と一体化した壁面をつくれないか——そんな思いから、このプロジェクトは始まった。
ちょうどその頃、「尾山台の家(けずりタイル)」の施工を手がけていた私たちは、設計事務所こぢこぢさんの住宅において、なにか新しいレンガタイルの表現にチャレンジできないかと考えていた。当社の還元レンガタイルは、窯変による色幅が非常に豊かで、さらに磨きをかけることで、表層だけでなく内部に隠された焼成時の化学変化までもが表情として現れてくる。その個性を、目地ごとフラットに削り込み、細目地で詰めた壁面として一体化させることで、通常の煉瓦タイル貼りとはまったく異質な存在になるのではないか——それは、ある種の実験でもあり、挑戦でもあった。
小嶋氏は、マテリアルの質感や固有の個性に、内壁建築としての「魔法」をかける術をお持ちの設計者である。素材を単なる仕上げとして扱うのではなく、空間の記憶や温度をつくる存在として読み解く。その感性とともに現場で新たな発見を重ね、悩み、試し、また磨き上げていく——そんなプロセスが待っているのではないかと、私たちはワクワクしながらこのチャレンジに臨んだ。
サンプルをつくり、多方面から検討を重ねたものの、実際に現場に入ってから気づかされることも多く、作業場はまるで実験室や研究室のような空気に包まれていった。削りの深さ、研磨の加減、目地との関係、光の当たり方。ひとつの判断が、壁面の印象を大きく左右する。
通常の自然光で見る表情と、カメラを通したときの印象、さらには光量の違いによって、まったく別の素材のように見えてくる。結果として、この作品は施工例写真泣かせとも言えるほど、実空間でこそ成立する壁面となった。還元焼成の生地には、まだまだ解き明かされていない謎が多く、焼きものの奥深さをあらためて思い知らされる。
このプロジェクトをきっかけに、私たちはその後、さらに多様な削り加工へと歩みを進めていくことになるが、その始まりがここにあったとは、当時はまだ想像もしていなかった。
素材と建築、設計者とつくり手、そして住まい手の感性が交差する場所で生まれたこの壁面は、単なる内装仕上げではなく、この住宅の「記憶の層」として、静かに時を刻み続けていくことだろう。
Outline
- 名称
- こぢこぢの家
- 所在地
- 神奈川県川崎市
- 設計
- こぢこぢ一級建築士事務所
- 使用タイル
- 二丁掛還元ワイヤーカット60x227x15mm
- タイル施工
- TLCアソシエイツ
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