Works
実績紹介

軽井沢別荘MプロジェクトⅢ

外部から内部まで違和感無く、同様の質感を生活に取り込む
軽井沢別荘MプロジェクトⅢ

Message

東京の避暑地、軽井沢。

その名を聞くだけで、都市の輪郭とはまったく異なる時間の流れが立ち上がってくる。標高の高さがもたらす澄んだ空気、湿度を抑えた風、苔むす地表と静かに重なる落葉の音。ここでは建築は「主張する存在」ではなく、自然という圧倒的な背景の中に、いかにして身を預けるかを問われる存在となる。

東京の街中に立つ建築が、周囲の建物との関係性や情報量の多さに対して、輪郭を明確にし、時に強い表情を必要とするのに対し、軽井沢の建築は真逆の価値観を内包している。豊かな森と自然の只中に佇む壁面には、「どれほど自然に溶け込めるか」という、極めて繊細で厳しい問いが突きつけられる。素材の選択一つで、その建築は風景に馴染む存在にもなれば、唐突な異物にもなり得る。

そこで重要になるのが、質感であり、表情であり、色合いであり、そして光との関係性である。日射しを受けたときにどう反射するのか、曇天の下ではどのように沈むのか。雨に濡れた瞬間、あるいは雪をまとったときに、素材はどんな表情を見せるのか。あからさまに「建材であること」を主張する素材よりも、むしろ建材であることを忘れさせるような、曖昧で静かな存在感をもつ素材ほど、この地では強く魅力を放つ。

その感覚は、北欧、特にスウェーデンの建築文化と深く共鳴する。スウェーデンでは、幅およそ35ミリ程度のスレンダーな石炭焼成の煉瓦が、今なお建築の外皮として選ばれている。工業製品としての均質さとは距離を置き、ざっくりと型抜き成形された粘土を、職人の手で型枠に押し込み、歪みを含んだまま焼き上げる。寸法の揺らぎ、エッジの欠け、焼成による色ムラ。そのすべてを否定せず、むしろ積極的に受け入れ、細目地で淡々と積み上げていく。

結果として現れる壁面は、完璧な平滑さとは無縁でありながら、どこか有機的で、呼吸するような表情をもつ。光が当たれば、微細な凹凸が影を生み、時間とともに表情が変化する。その不均質さこそが、森や空、地面と共鳴し、建築を風景の一部へと昇華させるのである。多くの建築家がこの意匠を選ぶ理由は、決して懐古趣味ではない。自然と対峙するための、極めて現代的な選択なのだ。

日本において、伝統的な煉瓦積みの建築が日常的に行われる機会は決して多くない。しかし、タイルという形態に置き換えたとしても、長手で細幅のプロポーションがもたらす効果は、軽井沢の別荘や住宅の外壁において非常に有効であると感じられる。水平ラインが強調され、建築のボリュームは抑制され、森のスケールに寄り添うように視線が流れる。

細幅であるがゆえに、壁面は一枚の「面」ではなく、無数の線の集合体として立ち現れる。その線と線の間に生まれるわずかな影が、光の角度によって刻々と変化し、静かなリズムを生み出す。人工物でありながら、どこか自然物に近い佇まいを獲得する瞬間である。

軽井沢という場所は、建築に対して雄弁さを求めない。むしろ、語りすぎないこと、作り込みすぎないこと、そして時間とともに風景へ溶け込んでいくことを、美徳として受け入れる。その価値観に真正面から向き合ったとき、細く、長く、わずかに揺らぎを含んだ煉瓦やタイルの壁面は、単なる外装材を超え、建築と自然をつなぐ「皮膚」として、静かに、しかし確かな存在感を放ち始めるのである。

Outline

名称
軽井沢の家
所在地
長野県北佐久郡軽井沢町
竣工
2022年8月
使用タイル
TLC社製40mm
炻器質化粧土掛ハンドメイドボーダー 40x295x18mm