Works
実績紹介

軽井沢別荘MプロジェクトⅣ

外壁数十メートルに渡るアール壁
軽井沢別荘MプロジェクトⅣ

Message

様々な形状やテクスチャーの中から抽出された、コバルトグリーンのタイルである。
森の中に溶け込み、決して工業製品のグリーンをあえて主張しないナチュラルなグリーンを発色している。
新築でありながら、さほど新しい素材を主張しないナチュラルな雰囲気で、森の中に佇む気品ある外壁となった。

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「なにを求めているのか?
——もう少し早く、積極的に事業オーナーの意向を知るべきだった。」

軽井沢の有名不動産会社・ディベロッパーである 「クリエイト軽井沢建設」が手がける超高級別荘の外壁に、当社の特注レンガタイルが採用された。本稿は、そのプロジェクトを振り返り、完成後に得られた強い実感と反省、そして確かな手応えを記録するための報告である。

プロジェクトの初期段階、私たちはいつものように外壁に関する課題を丁寧に聞き取り、条件や制約を整理しながら、輪郭を少しずつ明確にしていく作業を進めていた。素材の質感、色調、周囲の自然との関係性。表層的な要望だけでなく、その奥にある潜在的な意図を引き出すことこそが、私たちの役割だと考えていた。

しかし今回は、決定的に踏み込みきれなかった領域があった。それは、事業オーナー自身の思想や、この別荘事業に託された根源的なビジョンである。組織として運営される会社である以上、社長という立場の事業オーナーに、たびたび時間を割いていただくことは現実的ではない。そう判断し、一定の距離を保ったままプロジェクトを進めてしまった。その結果、時間は静かに経過し、私たちの意識はいつしか「外壁」という対象を、設計図やパースの中だけで完結させようとしていた。

有名別荘地・軽井沢の事業であるにもかかわらず、脳裏に描いていたのは、完成後の実景ではなく、どこか映像の中のワンシーンだったように思う。外壁をズームアップし、壁面を構成する細胞のような存在として、特注レンガタイルへと置き換えていく——その作業に没頭するあまり、建築が置かれる「場」そのものを、十分に想像しきれていなかったのかもしれない。

そして完成後、現地に立った瞬間、その認識は根底から覆された。
ペパーミントグリーンの煉瓦ボーダーが、軽井沢の深い緑の中に溶け込みながらも、確かな存在感を放っていた。その迫力は凄まじく、パースでは決して表現しきれない、生きた風景としてそこにあった。木立の隙間から差し込む光、湿度を含んだ空気、季節ごとに変化する周囲の色彩——それらすべてを受け止め、外壁は単なる「仕上げ材」ではなく、風景の一部として機能していた。

この瞬間、強い感動と同時に、はっきりとした反省が胸に浮かんだ。
事業オーナーは、すでにこの風景を見ていたのではないか。完成前から、この別荘が軽井沢の自然の中で、どのように佇むべきかを、直感的に思い描いていたのではないか。その核心に、もっと早い段階で、もっと積極的に近づく努力をすべきだったのだ。

超高級別荘の外壁とは、性能や仕様だけで語れるものではない。土地の記憶、時間の流れ、そして事業オーナーの哲学が重なり合って、初めて成立する。今回のプロジェクトは、その事実を、完成という結果をもって私たちに突きつけた。

同時に、私たちの仕事が決して間違っていなかったことも、この風景は証明してくれている。特注レンガタイルは、確かにこの場所にふさわしい表情を獲得し、別荘地の緑と共鳴していた。この成功と反省を糧に、次のプロジェクトでは、事業オーナーの意向に、より早く、より深く踏み込む覚悟を持ちたい。それこそが、素材を扱う者として、建築に関わる者としての、次の責任だと考えている。

Outline

名称
軽井沢の家
所在地
長野県北佐久郡軽井沢町
設計
久保田章敬建築研究所
竣工
2022年12月
使用タイル
TLC社製40mm炻器質化粧土掛ハンドメイド 40x295x18mm