AXE Koganei

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アール壁面への憧れのプロポーション
― 壁面素材メーカーとしての感激と喜び ―
本計画は、武蔵小金井駅前再開発という、整然と整備された新しい都市景観の中に位置する建築である。周囲には均質で光沢感のある外装材が並ぶなか、あえて“土物素材”であるレンガタイルを用いるという選択は、単なる仕上げ材の選定を超えた、建築としての強い意思の表れであったと感じている。
このプロジェクトにおいて、建築家Y様よりお声がけをいただき、当社が外壁素材の製作および施工に携わる機会を頂戴できたことは、壁面素材メーカーとしてこれ以上ない喜びであった。心より感謝申し上げたい。
ちょうどご相談をいただいた時期、私はスペインへ建築視察に赴く機会を得ていた。現地では、歴史的建築における開口部の納まりや、壁と窓枠の関係性、さらには素材の陰影の出方を実際に体感することができた。これらの経験は、本計画におけるアール壁面と開口部のプロポーションを理解する上で極めて有意義であり、日本国内の設計だけでは得難いリアリティをもって、本件にフィードバックすることができたと考えている。
本建築の最大の特徴は、交差点に面して大きく描かれたアール壁面である。この曲面に対して、どのようにレンガタイルを構成し、どのような表情を与えるか。そこには設計者の明確な意図と、それを具現化するための高度な技術的判断が求められた。
採用されたレンガタイルは、還元焼成による深みのある濃茶色を基調とし、光の当たり方によって微妙に表情を変える豊かな質感を持つものである。さらに、15mm厚と20mm厚のタイルを組み合わせることで壁面に微細な凹凸を与え、単調になりがちな曲面に陰影のリズムを生み出している。この厚みの違いによる陰影は、時間帯や天候によって変化し、建築に生きた表情を与え続ける。
また、積みパターンについても慎重に検討が重ねられた。遠景から見た際のまとまりと、近景でのディテールの美しさの両立を図るため、実際の煉瓦積みの学校建築などを見学しながら、施主様とともに理解を深めていった。単なるタイル貼りではなく、「煉瓦らしさ」とは何かを共有するためのプロセスでもあった。
施主K様にとって、外壁に特注のレンガタイルを採用するのは初めての試みであり、その理解と納得を得ることは極めて重要な要素であった。そのため、見学会を設定し、基本的な素材知識から焼成方法の違い、色味の出方、経年変化に至るまで、丁寧にご説明する機会を設けた。還元焼成による色の深みや、遠方から見た際の全体像の印象など、複数の視点から実物を確認していただくことで、最終的な意思決定の精度を高めていった。
最終段階では、施主様の好みを反映しながら複数の見本焼きを行い、微妙な色調の違いを比較検討したうえで決定に至った。このプロセスは時間と労力を要するが、完成後の満足度を大きく左右する極めて重要な工程であると、改めて実感している。
技術的な側面において特筆すべきは、アール壁面における目地処理である。通常、RC躯体には各階ごとに打ち継ぎ目地や伸縮目地が必要となるが、それらに施されるシーリング材は、しばしば意匠的な分断要素となる。本計画では、これらの目地に対して「弾性目地」を採用し、レンガタイルの目地色と質感に合わせて仕上げることで、視覚的な途切れを極力排除した。これにより、曲面が連続する美しい壁面として成立している。
さらに、逆覆輪目地の採用により、光が当たった際に生まれる陰影が強調され、タイル一枚一枚の存在感が際立つ仕上がりとなった。これは設計者の意図によるものであり、素材の持つポテンシャルを最大限に引き出す選択であったといえる。
完成した建築は、再開発によって整えられた街並みの中にありながら、どこか人の手の温度を感じさせる存在となった。均質で無機質な外装材が並ぶ中において、土の素材が持つ揺らぎや不均一さが、むしろこの建築に個性と深みを与えている。結果として、この建物は単なる一棟の建築ではなく、地域における“顔”としての役割を担うものとなった。
信頼をもって任せていただいた施主K様、設計を担われたY様には、改めて深く感謝申し上げたい。また、施工において多大なるご協力をいただいた三浦組のY所長、A様をはじめとする関係者の皆様にも、この場を借りて御礼申し上げる。
素材は単なる部材ではなく、建築の思想を具現化する媒体である。本計画を通じて、そのことを改めて強く実感した。
TLCアソシエイツ
木皿真司
平成24年3月1日
Outline
- 名称
- AXE Koganei
- 所在地
- 東京都小金井市本町1丁目8-9
- 設計
- STUDIO COVO
- 施工
- 三浦組
- タイル施工
- TLCアソシエイツ
- 現場名
- (仮称)Kビル新築工事
- 竣工後名
- AXE Koganei、千代田ハウス様オフィス
- 設計・監理
- 株式会社STUDIO COVO一級建築士事務所
- 施工
- 株式会社三浦組 建築本部建築部(東京都府中市)
- 外壁レンガタイル
- コンサルタント・製造・施工・管理:株式会社ティー・エル・シー・アソシエイツ
- 敷地面積
- 125.99m²
- 建築面積
- 87.89m²
- 延べ床面積
- 524m²
- 構造
- RC造地上7階、地下0階、建物高さ21.5m
- 工期
- 2011年5月~2012年2月
- 外壁タイル仕様
- 炻器質レンガタイル、湿式成形粗面二丁掛・小口平(幅抜き)
- 形状
- 60×210×t15mm、t20mm・60×100×t15mm、t20mm
- 色
- 還元焼成 特注色/ヨークシャー積(Yorkshire bond)
- 目地
- リックモルタル(二瀬窯業DS-04及び伸縮目地化粧DS-04)
チューブ目地詰(逆覆輪目地仕上げ パイプ掻き落とし、20厚凸部メジ切) - れんが
- 一部 4面粗面おなま煉瓦積 60×210×100、半マス、異寸、三つ穴他
- アール壁
- 躯体 R11,660mm
- 写真
- TLCアソシエイツ Shinji Kisara
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