ヴィラ外壁
厚み違いの二丁掛と小口サイズとの炻器質レンガタイルを使い凹凸を表現した。

Message
高低差のある穏やかな傾斜地に、静かに佇む一棟のヴィラがある。
周囲には現地の石を用いた重厚な石積みの外壁が点在し、この土地本来の時間の積層を感じさせる風景が広がっている。そのなかで、この建築は「石」ではなく「煉瓦」を選び、あえて凹凸のある壁面を立ち上げるという、きわめて繊細な選択から始まったプロジェクトであった。
緑に包まれた環境の中で、木と同系色の炻器質タイルを用いながら、あたかも本物の煉瓦積みのような重量感と陰影をまとわせる。ざっくりとした砂目地がつくる陰影のリズム、自然な色むらが生み出す奥行き。その表情は「タイル」という工業製品の枠を超え、まるで長い年月を経た煉瓦建築のような佇まいを目指していた。
しかし、ひとつ判断を誤れば、すべてが裏目に出てしまう。
石積みから煉瓦へと素材を切り替え、なおかつ凹凸感を残しながら、自然な色むらの表現幅をどこまで許容するのか。さらに、現場の製作状況が日々変化していくなかで、失敗の許されない割付計画をどの段階で確定させるのか。工程は待ってくれない。工場の焼成スケジュールも迫る。複数の代替案を検討しながらも、最終決断のタイミングは刻一刻と迫っていた。
今回選択された焼成方法は「強還元焼き」。
狙い通りに焼き上がれば、深みのある表情と自然なムラ感が生まれる。しかし一歩間違えば、色の狙いは大きく外れ、取り返しのつかない結果にもなりかねない。短期工程のなかで、この難易度の高い焼成条件を選ぶということ自体が、設計者にとっても大きな決断と不安であった。
現場では、タイルの下地の管理と施工工程が同時並行で進んでいく。
壁の凹凸形状に対して、どこまで煉瓦の厚みを許容できるのか。目地幅をどの寸法に設定すべきか。太目地のブリックチューブ目地が、本当に設計意図通りの表情になるのか。図面上では成立していても、実際の施工では微妙な調整の積み重ねが必要になる。
私たちは、設計者の迷いを一つひとつ消し去るため、参考となるのではと思う施工例へお連れし、実物の陰影、距離感、素材の重なりを体感していただいた。悩みの正体を言葉にし、課題を洗い出し、現場と工場の両側から実現可能なラインを探り続けた。
やがて最終仕様が決定し、工場での試験焼成が始まる。
焼き上がったモックアップを前に、色むらの幅、表情の奥行き、凹凸面での見え方を設計者と共に確認する。工場検査にも同行し、焼成の現場でしか分からない微妙な調整についても意見を交わした。
そして、いよいよ現場施工。
案じていた通り、太目地ブリックチューブ目地の仕上がりに対して、設計者の不安が再び顔を出す。図面で想定していた陰影と、実際の壁面に現れはじめた表情との施工上のズレ。その違和感を放置すれば、建築全体の印象を左右しかねない。
私は現地へ赴き、目地詰めの具体的要領や注入の仕方、仕上げのタイミングまで含めて指導を行った。施工の手元を確認しながら、職人と対話を重ね、設計意図がそのまま壁面に刻まれるよう調整を重ねていく。図面と現場のあいだに生まれる誤差を、ひとつずつ丁寧に埋めていく作業であった。
結果として、このプロジェクトは、単なる材料供給にとどまらず、企画段階から施工図、現場まで深く関わることを許された仕事となった。
設計者の思考と並走し、迷いを共有し、決断の重さを共に背負いながら進んだ時間は、私たちが長年培ってきた経験と完成度を試される現場でもあった。
緑の中に佇むこのヴィラの壁面には、凹凸の煉瓦とざっくりとした砂目地がつくる陰影が、時間とともに深みを増していくことだろう。
この壁が語るのは、素材の美しさだけではない。設計者と私たちが迷い、悩み、選び抜いた軌跡そのものでもある。
その一端に関わることができたことを、私たちは誇りに思っている。
Outline
- 名称
- art biotop SUITE VILLA
- 所在地
- 栃木県那須町
- 設計
- 坂茂建築設計
- 施工
- 八光建設
- 竣工
- 2020年
- 使用タイル
- TLCアソシエイツ社 特注生産品炻器質タイル還元焼成 二丁掛、一部小口平
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