Works
実績紹介

尾山台の家

タイルの壁を研削・研磨加工
尾山台の家

Message

世田谷の個人邸である。
建築家からのお題は、「風化した壁面」。長い年月を経た壁面が、以前から建物が存在していたかのような雰囲気を違和感なく表現しなければならない。タイルとかレンガとか石とか、ひとつひとつの個々の素材感が露出せず、壁として先に存在を感じ取ってもらうような壁だ。
以前から、文京区の「森鴎外記念館」の外壁の表現を研究していたこともあって、(仕事と言うか趣味と言うかとても興味があった。)貼ったレンガを研磨すると言うお話をいただいた時には、鳥肌がたつ感があった。せっ器タイルをどのように焼いて、どのように研磨し、どのよう目地があいまって建築家の奥底に存在する納得感が得られるものなのか、多々比較検討の実験をすることから始まった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

尾山台の邸宅
― 豪邸とは何かを問い直す、静寂のレンガ壁 ―

東京・世田谷区尾山台。

都心に近接しながらも、ゆるやかな起伏と緑が残るこの地に、一つの邸宅が完成しました。

一般的に「豪邸」と聞いて思い浮かぶのは、シンメトリーの構成、装飾的なモールディング、石柱やアイアンワーク、ヨーロッパの貴族的イメージではないでしょうか。
外観は威厳をまとい、誰の目にもわかりやすい“豊かさ”を表現する。

しかし、この邸宅はその方向とは逆の発想から始まっています。

設計者が目指したのは、声高に主張する豪華さではなく、
時間の中で風化し、深まり、やがてその土地に溶け込むような「静かな風格」でした。

完成した瞬間が頂点ではなく、
十年後、二十年後、三十年後にこそ真価を増す建築。

それは、日本的な侘び寂びの感覚にも通じる美意識です。

豪邸とは、面積のことなのか

豪邸という言葉は、ともすれば規模や価格、装備の充実度で語られます。
延床面積、天井高、素材のグレード、最新設備。

しかし設計者は、もっと根源的な問いを投げかけていました。

「豪邸とは、時間に耐えうる建築ではないか」

つまり、
流行や記号的装飾によらず、
素材そのものの力で、
静かに、しかし確実に存在感を深めていく建築。

それは派手さとは無縁です。
むしろ、余計なものを削ぎ落とした先に立ち現れる密度。

壁面は過度にデザインされることなく、
陰影の重なりと素材の肌理が、時間とともに表情を変えていきます。

この邸宅のレンガタイル外壁は、その思想を支える重要な要素となりました。

風化を恐れないという選択

多くの建築は「劣化」を恐れます。
色あせないこと、汚れないこと、均質であること。

しかし、この邸宅では少し違う考え方が採用されました。

土を焼成して生まれるレンガの色幅。
窯の中で生じる微妙な焼きムラ。
表面のわずかな凹凸。

それらは欠点ではなく、
未来の風景をつくる“種”です。

雨が当たり、陽が差し、季節が巡る中で、
わずかに変化していく壁。

均一ではないからこそ、
年月を経たときに奥行きが生まれる。

設計者は、その経年変化を建築の一部として受け入れました。

豪邸とは、
完成時の輝きを誇示するものではなく、
時間を味方につけられる建築のことではないか。

そんな思想が、この壁面には込められています。

静寂がつくる風格

外観は決して饒舌ではありません。
装飾は最小限に抑えられ、
窓のプロポーションと壁の面構成が静かに秩序を保っています。

近づいて初めてわかる、素材の密度。
触れたときに感じる、焼き物の温度。

遠目には控えめでありながら、
近づくほどに深みが増す。

それは、日本庭園の石組みにも似た佇まいです。

豪邸とは、
人を圧倒するスケールではなく、
人の感覚をゆっくりと沈める力なのかもしれません。

この建築には、
「見せる」よりも「佇む」という言葉が似合います。

尾山台という土地との対話

世田谷・尾山台は、
都心とは異なる時間の流れを持つ住宅地です。

喧騒から一歩離れ、
緑や空の広がりを感じられる環境。

この邸宅は、その空気を壊さず、
しかし確かな存在として立ち上がっています。

主張しすぎない外観は、
周囲の街並みを尊重しながらも、
どこか凛とした気配を放っています。

豪邸とは、
周囲を支配する建築ではなく、
周囲の風景を引き立てる建築であるべきだ。

そんな設計思想が、静かに息づいています。

私たちが関わったこと

TLCアソシエイツとして関わったのは、
単にレンガタイルを供給することではありません。

設計者の描く「時間の風格」を共有し、
色幅の出方、焼成条件、面状のニュアンスを検討しながら、
壁として立ち上がる未来の姿を想像する時間でした。

一枚のタイルは小さな存在です。
しかし、数千枚が集まり、一面の壁となるとき、
それは建築の人格を形づくります。

豪邸とは、
大きさではなく、人格を持った建築。

そう考えるならば、
壁の一枚一枚にも思想が宿るべきなのでしょう。

豪邸とはなんぞや

豪邸とは、
高価な素材を並べることでも、
過剰な装飾を施すことでもない。

時間を経ても揺らがない芯を持ち、
住まい手とともに歳を重ね、
やがてその土地の記憶の一部になる建築。

完成写真だけでは語りきれない価値。
十年後、二十年後にこそ深まる気配。

この尾山台の邸宅は、
その問いに対する一つの答えかもしれません。

静かであること。
控えめであること。
しかし、揺るぎないこと。

それこそが、
現代における新しい「豪邸」の姿ではないでしょうか。

Outline

名称
尾山台の家
所在地
東京都世田谷区
設計
石井秀樹建築設計事務所
施工
株式会社アーキッシュギャラリー
竣工
平成30年2月
使用タイル
TLCアソシエイツ社製:40x300x20mm粗面+部分化粧土塗布酸化還元焼成特注品/破れ目地/チューブ詰め工法ブリック目地+現地デザイン研削、研磨+塗目地仕上げ/一部弾性目地使用
タイル施工
TLCアソシエイツ