田園調布個人邸

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建築家の描いた意匠プランを、図面や言葉だけでなく「実感」として深くご理解いただくため、今回も私たちはオーナー様とご一緒に、都内の実例を三〜四箇所巡りながら現地解説を行いました。
今回の計画では、レンガタイルの縦張りという明確なデザイン意図があり、だからこそ早い段階で「目地を含めた完成の表情」を確認していただく必要がありました。
納期が迫る中であっても、拙速な判断は避けたい。
竣工後に初めて完成像を知るのではなく、住まい手ご自身が、完成前から具体的なイメージを持てること。それが、今回の見学の大きな目的でした。
近景で見たときの質感、遠景で街並みに溶け込む際の色のまとまり。レンガタイルは、距離によって印象が静かに変化します。その変化を、実際の空間の中で体感していただきたいと考えました。
特注タイルの製作は、原則として一度きりのサンプル焼成で最終仕様へと進みます。
ズレのない試作品へ導くためには、タイル決定時のこのプロセスこそが最も重要です。完成後に「何か違う」という違和感を残さないための、唯一の確認の場でもあります。
とりわけグレー系のレンガタイルは、太陽光の入り方、時間帯、目地幅や色の選択ひとつで、驚くほど表情が変わります。
今回の見学は、その微妙な濃度の差異を確かめるための、まさに絶好の機会でした。
このプロセスが成立したのは、設計事務所とオーナー様のご理解とご協力があってこそです。
特にオーナー様は、ご家族皆様が新しい住まいの外装について納得した上で選択できるよう、重要なチェックの時間として真摯に向き合ってくださいました。
それは、設計者が選び取った思想や、建物全体との調和という目に見えにくい価値を、言葉や図面以外の新鮮な情報として受け取っていただくための時間でもありました。
私たち制作者にとっても、初回から濃淡のパネル見本だけをお見せして、本当に施主様の視界が開けるのかという迷いは常にあります。
その予想的なジレンマを取り除くためにも、実例を共に歩く見学会は、信頼を積み重ねるための大切な道程だと考えています。
ご夫婦がご家族に「この煉瓦を選びました」と結果だけを伝えるのと、皆様が同じ空間を体験し、同じ納得を共有した上で選ばれた煉瓦とでは、住まい始めてからの“自分ごと”としての受け止め方は、まったく異なるはずです。
この外装レンガタイルには、そうした時間と対話、そして静かな確信が積み重ねられています。
完成した建物の佇まいの奥には、選ぶ過程そのものが、確かな記憶として刻まれています。
田井勝馬建築設計工房様 ウェブサイト 建築事例 田園調布の家「Y邸」
Outline
- 名称
- 田園調布Y邸
- 所在地
- 東京都大田区田園調布
- 設計
- 田井勝馬建築設計工房
- 施工
- 大同工業
- 竣工
- 2021年9月中
- 使用タイル
- せっ器質ハンドメイド加工二丁掛 60x210x15mm
- 施工図(タイル)
- TLCアソシエイツ
- タイル施工
- TLCアソシエイツ、目地施工:アサマ工業 豊氏
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