2026.04.06

タイル工事において誰にも理解されぬ 目立たぬ地味な工事「足場繋ぎ」

白華事例:足場解体時に、追っかけでタイル補修+ブリック目地チューブ詰め掻き落とし処理

足場の「壁つなぎ」——それは、建物の安全を支えながら、タイル職人の目には常に悩みの種として映る存在です。その工事が抱える課題は、竣工後の美しい外壁の裏側に静かに、しかし確実に潜んでいます。

仮設足場を建物躯体に固定する「壁つなぎ」用のアンカーは、足場の倒壊・揺れ・変形を防ぐために不可欠な安全部材です。しかし、タイル工事の観点から見れば、このアンカーが打ち込まれた箇所は常に「逃げながら貼る」という作業を強いられ、大きな現場では数十箇所にもおよびます。高級個人住宅ではその数こそ少なくなりますが、施主様はその一箇所一箇所に対して非常に敏感です。竣工後のクレームにつながりやすい、優先度の高い注意事項です。

足場繋ぎ

この繋ぎを瞬時に、鳶職といっしょには避けたい作業

チューブ詰め

モルタルパックで詰めた後、乾燥時間が掛かる

挿入後のブリック目地

※乾燥後、押さえて掻き落とし

白華(エフロレッセンス)という厄介者

アンカー周辺の壁箇所は、タイル工事後に後処理が非常に手間のかかる補修工事が発生します。モザイクタイルのような小さなタイルでさえ、処理を怠ると足場解体後に白華現象(エフロレッセンス)という大きな問題に発展します。

白華とは、目地材に含まれるセメント成分が雨水や湿気を含んで表面に浮き出し、白く汚れる現象です。特に当社が施工例に多用するブリック目地——目地幅15mm以上の荒骨材入り目地材——においては、この問題は深刻です。チューブから詰めたブリック目地材は乾燥が遅く、タイルからはみ出した目地材を湿った状態で掻き落とした箇所から、後日エフロレッセンスが目地から垂れ下がり、タイル表面や周辺を白く汚してしまうのです。

なぜ問題になるのか

一度でも足場解体後の繋ぎ箇所に白華汚れが生じると、洗浄には希塩酸を使用した大がかりな工事が必要になります。歩行者への養生、階下への配慮、費用と時間——そのすべてが施工する責任者の肩にのしかかります。「なんとかなるでしょう」という現場任せの姿勢で乗り越えられるものでは、決してありません。

二丁掛レンガタイルの場合、さらに難題が加わる

モザイクタイルと違い、二丁掛レンガタイルで足場解体時に鳶職人と一緒に繋ぎを貼って廻るなど、現実的には危険で時間もかかり、とても不可能です。広い面積を白華なしで完璧に仕上げることは、その状況下ではできるものではありません。

こうした経験を積み重ねてきた当社では、タイル工事を受注する際の積算条件・施工条件として、必ず建設会社に一つのお願いをしています。

当社が提案する解決策——アンカーの「継ぎ直し」

それは、タイル工事がほぼ完了した段階で、躯体に当初から打ち込まれていたアンカーから、壁つなぎを「継ぎ直し」していただくというお願いです。

具体的な手順はこうです。アンカーが邪魔して貼れなかった部分を、アンカーを目地位置に移動させて継ぎ直し、先にその箇所の補修タイル工事と目地工事を終わらせておきます。こうすることで、躯体への連結が必要なアンカーだけを残した状態でタイル工事を目地まで完了させ、タイル洗い前の状態まで整えることができます。

足場解体の際に鳶職さんにお願いするのは、目地位置に継ぎ直したφ約10mmのアンカー穴への目地材充填のみ。タイル職人を現場で待たせることもなく、危険な状況下で無理な作業を強いることもありません。

RCTアンカーという選択肢

繋ぎ直し用ネジ式RCTアンカー

この継ぎ直し作業と相性が良い製品として、ゼン技研株式会社が開発した「RCTアンカー(コンクリート用あと施工タイプ)」があります。その特徴を以下にまとめます。

・下穴径

φ10.5 mm
従来型φ18mmの約6割
作業時間・騒音
従来比 約1/2
施工効率が大幅に向上

・許容荷重

0.5 t/本以下
安全率2以上を確保
推奨使用回数
原則2回
仮設工業会基準に基づく

・汎用サイズ

RCT-80
壁厚70mm以上に対応
防水処理
シーリング材
撤去後バックアップ材で充填

従来の打込み式アンカーは下穴径が大きく、錆ダレやタイル補修が必要になるなど構造物へのダメージが懸念されていました。RCTアンカーはその欠点を克服し、「構造物へのダメージ最小化」を最重要に設計された製品です。タイル工事と足場安全の両立という観点から、当社が信頼を寄せる製品のひとつです。

※ゼン技研㈱カタログより抜粋

現場での実情——職人たちの知られざる苦労

壁繋ぎの現場に携わった職人にアンケートを取れば、各現場ごとに驚くべきドラマがあるはずです。足場のない危険な状況で強引に作業を進めた経験、鳶職さんとの段取りがうまく合わなかった経験、もっと綺麗に仕上げたいという思いから生まれた個々の工夫と無報酬の努力——それらが積み重なって、現場はなんとか乗り越えられています。

しかし、それは本来あるべき姿ではありません。準備と計画がなされていれば、防げた苦労です。

施工前の対話こそが最大の品質管理

当社がタイル工事を受注する場合、タイル工事が始まった段階で、現場建設会社の現場所長や監督に対して必ず十分な事前説明と協議を行います。特にブリック目地仕上げのような特殊な施工においては、この事前説明なしには関係者全員の平和が守れません。

打ち合わせで軽く触れる程度では不十分です。工期後半、足場解体の時期になってから慌てて準備するのでは遅いのです。問題が起きてから施主様を納得させることは非常に難しく、それがどれほどの損失と関係者へのダメージをもたらすか、経験を持つ者だけが知っています。

設計者や施主様の満足する施工とは、プロフェッショナルとして予め考えられる不備を消し込んでおくことです。力関係や慣習に流されることでも、他人任せにすることでもありません。設計段階から壁の足場繋ぎ問題を俎上に載せられる設計者がどれほどいるかはわかりません。しかし、良い建築とは、十分に準備され、よく計画されたものです。

当社は、各専門職の立場から人任せにしない前向きな建築思想をもって、これからも施工に向き合っていきます。目立たない工事ほど、丁寧に。地味な工程ほど、誠実に。