「特注レンガタイル、何㎡から頼めるのか」

アトリエ系の設計事務所が個人邸の外壁にレンガタイルを検討するとき、最初に頭をよぎる不安のひとつが「そもそも、この規模で特注できるのか」という問いではないだろうか。
住宅一棟の外壁面積は、大きくても数百平米。贅沢に全面貼りではなく、ファサードの一面だけ、あるいは玄関まわりのアクセントとして——そういう計画であれば、さらに数量は絞られる。大手タイルメーカーに問い合わせれば、特注の最低ロットに満たないと言われた経験を持つ設計者も少なくないはずだ。「数量が足りないから無理」という一言で、検討が止まってしまった案件がいくつあっただろうか。
レンガタイルの特注生産は、一般的には300㎡からが受注の目安とされている。工場の窯のサイズ、焼成のコスト、色の安定性——製造上の理由は明快で、それ以下の数量では採算が取れないというのがメーカー側の論理だ。その構造は理解できる。しかし設計者の側から見れば、個人邸の外壁計画においてその数字はハードルとして立ちはだかる。
当社の場合、個人邸における自社特注の目安はおよそ100㎡からとなっている。一般的な基準のおよそ3分の1の数量だ。
当然、小ロットになればコストは上がる。同じタイルでも、ロットが小さくなるほど一枚あたりの単価に割高感は出る。それは正直に伝えるべきことだ。しかし、外壁のデザインにまでこだわって個人邸を計画するオーナーという存在を考えたとき、その価格差が「無理な数字」かといえば、そうではない。自分だけの外壁のために、誰も持っていない色と質感のタイルを選ぶ。その価値に対して、相応の予算感を持っている方々が、そういう住宅の施主になっている現実がある。
ただ、話はここで終わらない。
当社は自社での受注生産だけを行っているわけではない。長年この仕事を続けてきた中で、国内の複数の窯元や生産現場をよく理解している。どの産地で、どういう製法で、どんな原料を使っているか。焼き上がりの個体差の範囲がどれくらいで、小ロットに対応できる窯がどこにあるか。その知識と施工例の認識は、自社生産の枠を超えて把握している。つねに、国内の良い素材にはたえず反応してきているからだ。それが専門の仕事であり、趣味でもあるから。
つまり、自社特注に満たない数量であっても、信頼できる窯元や素材をセレクトして紹介する選択肢がある。国内の別メーカーであれ、商社が扱う素材であれ、生産の現場と品質を自分の目で確かめた上で、その案件に最もふさわしい素材を提案する。そこにアイデアと知見を注入しながら、設計者と一緒に答えを探していく——それが当社の役割だと思っている。
さらに言えば、個人邸の外壁の仕上がりを決めるのは、素材の数量だけではない。むしろ本質は、どう貼るか、どう仕上げるかという施工のデザインにある。目地の幅と色、コーナーの処理、異素材との取り合い——そこに職人の技術とセンスが加わって初めて、壁面は完成する。信頼できる目地職人の手で施工すれば、たとえ特注ではない素材であっても、玄関ホールの一角であっても、「一歩違う壁面」に仕上げることは十分に可能だ。やりようは、いくらでもある。
施工事例の見学会でオーナーに実物を見てもらうとき、いつも感じることがある。サンプルや写真ではぼんやりとしていたイメージが、実際の壁面の前に立つと急に具体的な輪郭を持ち始め、新しい家への期待がみるみる膨らんでいくのがわかる瞬間だ。タイルの話をしているのに、気づくと施主が夢中になっている。設計者もその熱量に引っ張られるように、さらに深い話へ踏み込んでいく。そういう場面に何度も立ち会ってきた。
数量が足りるかどうか、予算感が合うかどうか、特注でなくても理想に近づけるかどうか——そういう疑問は、聞いてみなければわからないことばかりだ。設計者にとって、初めて問い合わせるときの「敷居の高さ」は十分に理解している。近しい関係でなければ相談しにくいという感覚は、どの業界でも同じだろう。しかしその敷居を、できるだけ低くしておきたいとずっと思っている。
数量や建物のグレードにかかわらず、レンガタイルを使いたいと思っているすべての案件に、何らかの形で役に立てることがある。その入口は、思っているよりずっと広い。そして正直なところ、この仕事のプロセス——設計者と一緒に素材を選び、納まりを考え、壁面の仕上がりを追いかけていく時間——が、当社にとって本当に楽しい仕事なのだ。