建築家が求めているレンガタイルとは何か

トンネル窯から出された特注タイル
―― 外壁素材としてのレンガタイルの現在地と、その本質
外壁に使用されるレンガタイルは、建築の印象を決定づける重要な素材の一つです。特に近年、建築家が設計する住宅や集合住宅、文化施設において、レンガタイルは単なる仕上げ材ではなく、建築の質量や時間性を構成する本質的な要素として再び注目されています。
かつてのレンガタイルは、主に耐久性や意匠性を目的とした外装材として選定されることが多く、色や寸法、コストといった条件の中で比較検討される建材の一つでした。しかし現在、設計者がレンガタイルに求めているものは、そうした機能的側面にとどまりません。
建築家は、レンガタイルを通して、建築そのものの存在のあり方を設計しようとしています。
私自身、長年にわたり特注レンガタイルの製作に携わり、多くの設計者と対話を重ねてきました。その中で強く感じるのは、建築家がレンガタイルを単なる表層の材料としてではなく、建築の一部として扱っているという明確な変化です。
例えば、サンプルを前にした設計者は、「もう少しグレーが強い方が良い」といった単純な色の指定をするのではなく、「この焼きムラが連続したとき、壁面にどのような奥行きが生まれるか」「この寸法の水平ラインが建築全体の重心にどのように作用するか」といった、より空間的で構造的な視点から素材を見ています。
そこでは、レンガタイルは色のついた部材ではなく、建築の質量を形成する最小単位として扱われています。
特に還元焼成によって生まれる色の揺らぎは、設計者にとって非常に重要な要素となっています。還元焼成は、窯の強制的な内部環境によって微妙な発色の差を生みます。同じ土を使用し、同じ工程を経たとしても、窯積みのレンガタイルは完全に同一にはなりません。この個体差は、工業製品としての均質性から見れば不確定な要素ですが、建築の外壁として構成されたとき、そのわずかな差異が壁面全体に静かな深みを与えます。
朝の低い光の中では陰影が柔らかく浮かび上がり、夕方には表面の粉吹きがわずかに光を反射する。曇天の日には色の階調がより均質に見え、雨の日には焼き土本来の湿った部分の色が強く現れる。このような環境との関係性の中で、レンガタイルは単なる外装材ではなく、時間と光を受け止める建築の表層として機能し始めます。
また、寸法の選択も、建築の印象に大きな影響を与えます。従来の二丁掛サイズに加え、近年では高さを抑えたボーダー形状や、より長さを強調した長尺寸法のレンガタイルが選ばれることが増えています。例えば高さ40mmのレンガタイルは、目地の水平ラインを細かく連続させ、外壁面に繊細な陰影の層を生み出します。特に住宅では、そのプロポーションが馴染みやすく、一方で長さを延ばした形状は、建築の水平性を強調し、建物全体に安定した重心をもたらします。
このような寸法の変化は、単なる意匠の違いではなく、建築のスケール感そのものを調整する役割を持っています。
さらに、表面の仕上げにおいても、設計者は完全に均質な仕上げよりも、わずかな不均質性を持つものを求める傾向があります。粉吹きの残り方や、手作業による微細な擦りの差は、一見するとばらつきのように見えますが、その差異こそが外壁に複雑な光の反応を生み出します。均一に整えられた表面は、光を均一に反射し、単調な印象を与えます。しかし、微細な凹凸と質感の差を持つ表面は、光の角度によって異なる陰影を生み、建築に深みと雰囲気を与えます。
このような素材の特性は、完成した瞬間に最大の価値を持つのではなく、時間の経過とともにその本質を現していきます。
建築は完成した時点が終わりではありません。風雨にさらされ、光を受け、周囲の環境と関係を築きながら、徐々にその存在を深めていきます。その過程の中で、レンガタイルは外壁としての役割を超え、建築の時間を受け止める媒体となります。
私が製作に関わるレンガタイルもまた、窯から出た時点では、まだ完成した建築の一部ではありません。単なるパーツです。それは一つの素材として存在しているに過ぎません。しかし、設計者の意図の中で選ばれ、建築の外壁として配置され、光と影の中に置かれることで、初めて建築の一部としての意味を深く持ち始めます。

赤焼き過ぎ還元焼成 冴え有り

還元焼成

化粧土ハンドメイド加工


化粧土パラ掛け

化粧土塗布

ジルコニットどぶ付け加工
建築設計者向け 外壁用レンガタイル 特注仕様書フォーマット
Ⅰ. 基本情報
製品名称:
TLCアソシエイツ 『陶』toh シリーズ 特別注文品
用途:
外壁仕上げ材(屋外・屋内)
製造:
㈱TLCアソシエイツ
製法:
押出成形・高温焼成(炻器質) JIS A5209(2014)区分 Ⅰ類 or Ⅱ類
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Ⅱ. 寸法構成(Architectural Proportion)推奨
項目 寸法
標準寸法 60 × 210 × 15 mm
推奨寸法 40 × 227 × 15 mm
長尺寸法 40 × 295 × 20 mm
設計意図:水平性を強調する40mm高さと長尺寸法により、外壁面を部材の集合ではなく、連続した建築的質量として構成する。
特に295mm長は、建築スケールにおいて視覚的安定感と静けさを生む。
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Ⅲ. 焼成仕様(Firing Character)
焼成方式:
還元焼成および酸化焼成の混合
焼成温度:
約1200〜1250℃
焼成特性:
• 還元焼成による深みのある色調(素地中の金属化合物の化学変化の美)
• 酸化焼成の混在によるより自然な色幅
• 窯積みの焼成位置差による個体差
• 窯の燃焼環境による、所謂「窯の雰囲気」による差
設計意図:
均質な色ではなく、焼成によって生じる自然な色差を許容することで、外壁に時間的深度を与える。
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Ⅳ. 表面仕上げ(Surface Texture)
基本仕上げ:
• 表面粉吹き処理(パラ掛け、ジルコニット釉どぶ付け等)
• 手作業による表面こすり調整(化粧土塗布、ローラー掛け、表面生地櫛引)
• 骨材シャモット大のワイヤーカット幅抜き(機械利用のナチュラルテクスチャ)
特徴:
• 微細な粉体付着によるマット質感、エイジング感
• 手作業による個体差、窯変と表面塗布土との不確かな肌理からの偶発的色合い
• 光の反射を抑えた静かな表情、シャモット挽き跡の細孔
設計意図:
表面のわずかな不均質性により、光環境の変化に応答する陰影を生む。
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Ⅴ. 色調特性(Color Range)
基調色:
• ブルーグレー系
• 焦茶系
• 紫がかった還元色
• グレー系ベージュ
• 中間トーン混合
混合率:
• 標準:3〜5色混合
• 混合率はロット内自然混合及び選択色により原料別2種混合
設計意図:
単色では得られない奥行きを持つ外壁面を形成する。
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Ⅵ. エッジ特性(Edge Character)
エッジ状態:
• 完全な機械的直線ではなく、微細な個体差を許容(手加工の輪郭ぶれ、ワイヤーと骨材の揺れ感
効果:
• 面としての柔らかさ
• 自然な陰影形成、天然材風のゆれ感
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Ⅶ. 推奨施工仕様
施工方法:
• 圧着張り工法(ヴィブラート機使用圧着張り、あと目地詰め)※タイル専用圧着モルタル
• 目地材:ブリックモルタル(骨材入)チューブ詰め掻き落とし平目地仕上げ推奨
• または、弾性接着剤貼り工法(生産時ボンド貼り用裏あし推奨)
• 躯体コンクリート下地の場合、超高圧水洗浄法厳守
目地仕様:
• フラット目地推奨:目地材:ブリックモルタル(骨材入)チューブ詰め掻き落とし平目地仕上げ推奨
• 目地幅:8〜17mm推奨(ボーダーから二丁掛)
設計意図:
目地を引っ込めず、面として統合された外壁構成を推奨する。
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Ⅷ. 建築的効果(Architectural Effect)
本レンガタイルは、単なる仕上材ではなく、
建築の外壁に質量と時間性を与える素材として設計されている。
焼成による自然な色差と手作業による表面調整により、
光環境の変化に応答する静かな表情を形成する。
長尺寸法は外壁の水平性を強調し、
建築全体に安定したプロポーションを与える。
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Ⅸ. 設計者への推奨用途
特に以下の用途に適する:
• 高級住宅外壁
• 集合住宅外壁
• 文化施設
• 建築家設計案件
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Ⅹ. 設計思想(Concept Statement)
本レンガタイルは、工業製品としての均質性ではなく、焼成によって生まれる個体差を尊重し、素材としての存在性を優先している。
建築は完成時が終わりではなく、時間の経過とともに完成へ向かう。
本素材は、その時間の過程を受け止める外壁として設計されている。