2026.02.11

外壁レンガタイルの色決定は「環境設計」である

見本焼きする前に、施主様と現場での色彩をチェックする

見本焼きする前に、施主様と現場での色彩をチェックする

6月11日13時12分の事例から整理する個人邸確認の設計論

個人住宅における外壁レンガタイルの選定は、単なる色合わせではありません。
光、時間、周辺環境を含めた総合的な確認作業です。

設計者であれば当然理解していることでも、実際のプレゼンテーションの場面では、ほんのわずかな判断の違いが大きな展開を生むことがあります。
私はその段取りを担う立場として、その重みを何度も経験してきました。

今回の出来事も、その典型でした。
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1. 色が決まらない施主様へのアプローチ

対象となった施主様は、外壁色をなかなか絞り込めずにいらっしゃいました。
それは好みが分からないからではなく、「失敗したくない」という慎重さゆえでした。

設計者からのコンセプト説明やカラーコーディネートの提案は十分に行われていました。
しかし、ご自身の中で「これで良い」と言い切れる感情の整理には、まだ時間が必要な段階でした。

人には決断に至るまでの順序があります。
慎重に積み上げる方もいれば、直感で進む方もいる。
その違いを理解することは、この仕事の基本だと感じています。

今回の施主様は、確認を重ねながら納得を深めていくタイプでした。

そのため、以下のようなプロセスを踏みました。

・既存建物の見学会で実物確認
・晴天・曇天での見え方の違いを体感
・朝夕での印象変化の確認
・目地色との関係性の説明
・縦張り・横張りによる印象差の確認
・他事例を自邸意匠に置き換えての違和感検証

少しずつ方向性は見え始めていました。
私は、現地で比較確認するための「焼成調整前提のたたき台見本」を用意しました。

ここまでは問題ありませんでした。

問題は、提示した環境です。

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2. 6月11日13時12分という時間帯

確認は現場敷地内で行いました。
敷地は狭く、モックアップを自由に動かす余裕はありません。

時刻は6月11日、13時12分。

この時間帯の直射光は、素材にとって厳しい条件です。

・太陽高度が高く、影がほとんど落ちない
・凹凸が視覚的に消えやすい
・彩度が抜け、白飛びしやすい
・焼き肌の奥行きが平坦に見える

実際、狙っていたグレーと黄色の微妙なバランスは飛び、
見本は想定以上に白く、軽く見えてしまいました。

施主様の第一声は、
「思っていたより白いですね。」

その一言で、ここまで積み上げてきたイメージが揺らぎました。
「この方向で良いのだろうか」という迷いが、再び表情に浮かんだように感じました。

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3. 作り手の前提と施主様の前提

製作側の思考はこうです。

・これは基準となるサンプル
・ここから強弱を調整する予定
・目地との組み合わせで印象は変わる

しかし施主様にとっては、

・目の前の現物が未来の住まいの印象
・「調整前」という概念は抽象的
・第一印象が最も強く残る

つまり、「たたき台」という言葉はプロ側の論理であり、施主様の心理には必ずしも通用しないのです。

ここに、わずかな認識のズレがありました。

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4. 現場確認における整理事項

今回の反省から、設計者と共有すべき確認事項を改めて整理しました。

① 時間帯の設定

・できる限り早期に色決めを開始する
・正午前後は避ける(季節・方位により要検討)
・斜光の時間帯を選ぶ
・太陽方位と建物正面の関係を確認する

② 天候の確認

・快晴と曇天では印象が大きく異なる
・強すぎる直射光は素材感を消す
・薄曇りは確認に適する場合が多い

③ 仮設対応

・狭小敷地では可動モックアップが困難
・仮設で影をつくる工夫
・角度調整可能な支持方法の準備

④ 調整前提の視覚化

・調整後想定サンプルを同時提示
・写真ではなく実物比較
・段階差の焼成サンプルを可能な限り用意

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5. リカバリー

不安が生じた後、私たちは原点に戻りました。

施主様が納得されていた見学建物の前へ再度ご案内し、

・たたき台見本
・調整後想定サンプル
・目地色見本
・比較用写真
を同条件下で並べて確認しました。

人間の色彩記憶は曖昧です。
比較基準を残し、記憶の補助とすることは重要です。

同じ環境で見比べることで、施主様は静かに頷かれました。
方向性は間違っていない、と。

ここで効いたのは説明ではなく、環境の再構築でした。

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6. 教訓

外壁レンガタイルは、

・色だけでは成立しない
・光と影で完成する素材
・周辺色彩の影響を受ける素材

確認作業は「色決定」ではなく、「判断環境の設計」です。

特に個人邸では、

・施主様の心理的安心
・頭の中のイメージ整理
・第一印象の安定
・誤解を生まない提示方法

これらが極めて重要です。

狭い現場条件は言い訳にはなりません。
時間設定もまた、設計の一部です。

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7. 結論

サンプルは道具に過ぎません。
その道具を、どの環境で、どの時間に、どう見せるか。
そのわずかな違いが、判断環境そのものを揺らしてしまうことがあります。

私たちは色を決めているのではありません。
施主様が安心して決断できる環境を整えているのです。

6月11日13時12分の光は、そのことを改めて教えてくれました。

見本焼きする前に、施主様と現場での色彩をチェックする

見本焼き前の考え方確認見本: 晴天時 サンプルに直射日光

試作レンガタイル

本焼き前のモックアップ試作

叩き台小見本貼り

施主用初回サンプル群