ペルソナは、誰か?

2026年が始まりました。
世の中の多くの会社が、淡々と営業を再開する季節です。
レンガタイルを専門に扱う立場として、私は毎年この時期になると、国内大手メーカー各社の動きをあらためて確認するようにしています。日頃から業界の状況は把握しているつもりではありますが、最新の紙カタログやネットカタログに、あえて一通り目を通す。これは情報収集というより、確認作業に近いものです。
そして、毎年ほぼ同じ感想に行き着きます。
「やはり、どこも売上目標に最適化された商品ばかりだな」と。
それは決して否定的な意味ではありません。
製造メーカーとして、生産効率を高め、クレームを避け、誰が扱っても問題なく流通し、現場で完結する商品を用意する。説明に営業が同行しなくても、販売店や工事店が無理なく扱え、全国どこでも同じ品質で施工できる。建材として、それは極めて健全で、正しい姿です。
在庫品は、国内の大小さまざまな建築に使われてこそ価値を持ちます。特定の案件にしか使えないものばかりでは、商売として成り立たない。それもまた、当然の話です。
建築の世界には、タイルやレンガだけでなく、石材、塗装、左官、新建材、パネル、サイディングなど、数えきれないほどの素材が存在します。それぞれが市場を争い、限られた予算と選択肢の中で選ばれなければなりません。そうした競争社会の中で、「レンガタイル」という一種目に特化して情報を発信し、価値を伝えようとすれば、膨大な建材情報の波に、あっという間に埋もれてしまいます。
私自身は、1970年代から90年代の建築の影響を色濃く受けてきた世代です。
そのため、「焼き物」という素材が持つ、建築における本質的な魅力や、どうしても譲れない感覚が、身体のどこかに染み付いています。
各メーカーの広告コピーを眺めていると、よく似た言葉が並びます。
「~を再現した」「~をモチーフにした」「焼き物ならではの風合い」「手仕事のような質感」「クラフト感」「リニューアル」「モダン」「使いやすさ」「組み合わせ」「土もの」「個性的な面状」。
おそらく、実際にレンガタイルを担いで設計営業をした経験のない会社員コピーライターが、資料をもとに丁寧に言葉を紡いでいるのでしょう。それが悪いわけではありません。ただ、そこには商談の現場で感じる重さや現実感が欠けていることも多い。
若い頃、私は飛び込み営業から初めこの世界に入りました。その後、長年にわたり「設計活動営業」と呼ばれる仕事を続けてきました。設計者と向き合い、話を聞き、悩みを共有し、時には無理難題を突きつけられながら、素材の可能性を一緒に探ってきた。その結果、私の視点は、いつの間にか完全に設計者側の目線になっていました。
感覚の鋭い人たちの集団の中で、理解し、対応し続けなければならなかった。そうならざるを得なかった、という方が正確かもしれません。
一方で、大手メーカー経営の視点に立って考えてみれば、話はまた違って見えます。
国内におけるタイルやレンガの市場規模は、正直なところ決して大きくありません。あえて具体的な数字は挙げませんが、他の新規事業で簡単に上回れてしまう程度の金額です。
大卒の新入社員を時間とコストをかけて育て、この分野に配置したとしても、会社全体の中で大きく評価される事業にはなりにくい。そう考える経営者の判断も、理解できます。
だからこそ、なるべく手を掛けず、クレームにならない商品化。
いつ、誰に売っても問題が起きない、ノンクレームを前提とした商品。それが、組織としての「正解」なのでしょう。
工場の担当者が、サラリーマン社会の上下関係の中で議論しながら企画する商品は、会社のことを考えれば考えるほど、設計者や建築家の意向から、少しずつズレていきます。
建築家は、メーカーの品番がわかるような素材や規格された既存のパターンのまま使いたくはありません。
素材そのものが持つ表情や意味を他の仕上がり構成とを熟考しながら使いたいのです。
仕事柄長くこの仕事をしていると、どのメーカーの、どの窯元のものかは、見ればすぐに分かるようになります。
テレビを見ていて、背景に映る建築物の壁を見た瞬間、「あ、あれだな」と独り言を言ってしまうことも珍しくありません。
では、何が言いたいのか。
別に、業界全体に変革を求めているわけではありません。当たり前の構造が、当たり前に存在しているだけの話です。その中だからこそ、設計者の様々な背景によるチェック事項を済ませて「ものづくり」にご協力したいのです。
ただ一つ確かなのは、現代の建築設計者が、無意識のうちに日常的にインプットしている悪いイメージの情報量が、数十年前とは比べものにならないほど増えている、ということです。それに伴い、「タイルというマテリアルへの認識」も、確実に変化しています。
施主となるクライアントも同様です。
「丁寧に、美しく包装されているけれど、実際の価値はどうなのか」
「事実はこうですよ、と説明されたうえで、あなたはどれを選びますか」
興味があるかどうかに関わらず、そこまで踏み込んで初めて、納得や感謝につながるレベルに来ていると感じます。
マーケティングの世界では、「ペルソナ」という言葉がよく使われます。
では、あなたのペルソナは誰ですか、と問われて、「建設業界の多くの人や、できるだけ多くの案件に売れることです」と答えたとしたら、おそらくマーケティングの教師からは、もう一度勉強し直すように言われるでしょう。
レンガタイルや焼き物が本当に好きなオーナーや建築家をペルソナに据えるのであれば、ネット検索で簡単に見つかる商品とは、むしろ逆の方向に進むことになります。施工は難しく、素材の説明は不可欠で、決して「分かりやすい」世界ではありません。
レンガタイルに関して言えば、解説なしに完全に納得できるものなど、存在しないと思っています。
もし簡単に成立しているとすれば、それはどこかで妥協が行われた結果でしょう。
売上だけで評価される仕事に、最初から携わっていれば、もっと楽な道もあったのかもしれません。しかし、どうしても深く考えて拘ってしまう性分の私には、それは無理だったのでしょう。
新年にあたり、このモノローグを書くことで、日本の建築の現状と、自分自身の立ち位置を、あらためて見つめ直す機会となりました。
私と同じように、少しマニアックで、拘りの強い設計者の方々を探しながら、2026年をスタートしたいと思います。