2025 理想的な仕事だった。

レンガタイルは、意匠材料であると同時に、判断の連続で成立する素材です。
設計・納まり・施工、そのどれか一つが欠けても、壁面はうまくいきません。
私たちは製造メーカーでありながら、設計段階から現場まで関わり、判断の整理と合意形成を支える立場で仕事をしています。
本稿は、初めて本格的にレンガタイルを使う設計事務所との実例を通して、設計者の時間を軽くし、完成精度を高めるために、私たちが現場で何を考え、どう動いているかを記したモノローグです。
この仕事は、設計事務所に呼ばれて伺ったことから始まりました。
外壁について相談したい、というご連絡でした。
私は、単なるレンガタイルの製造メーカーの営業として、その場に行ったつもりはありませんでした。
設計者の立ち位置より一段内側に入り、できれば施主様とも同じ目線で、最終的に納得できる壁面をどう構築するかを一緒に考えるパートナーとして関わりたい。
そのことを、なるべく早い段階で理解していただきたいと思っていました。
設計的に成立するかどうか、図面通りに納まるかどうか、現場で施工できるかどうか。
そういった不安を解消するために来た、という感覚は、私自身にはほとんどありませんでした。
それよりも強く意識していたのは、設計者と施主が、どこに価値を見出し、どこで意見が食い違う可能性があるのか、その一致点をどう見つけ出すかということでした。
施主様がまだ言葉にしていない思考の輪郭を、どんな質問で引き出せるか。
そのための多くの情報を集めたい、という気持ちで打ち合わせに臨んでいました。
レンガタイルの仕事は、現場が始まってから考えるものではありません。
私の中では、設計段階に入った時点で、すでに半分は終わっている仕事です。
打ち合わせの初期段階から可能な限りヒアリングをし、その内容を先回りして質疑へ移動し、次回までの準備とする。
どこで判断が必要になり、どこで迷いが生じるかを、設計者より少し先に把握しておきたかったからです。
レンガタイルは、意匠材料であると同時に、非常に施工的な材料です。
割付ひとつで見え方が変わり、納まりひとつで評価が分かれます。
図面上では成立していても、現場では成立しないケースも珍しくありません。
だから私は、この納まりは現場で迷わないか、職人の手が止まらないか、監督が判断を求められたときに説明できるか、そうした点を図面の段階で一つずつ整理していきます。
設計者にすべてを委ねるのではなく、こちらの正解を押しつけるわけでもない。
判断材料を並べ、選択肢を整理し、設計者が決断しやすい状態をつくる。
それが、私の役割だと考えています。
結果として、設計者の打ち合わせ回数は減り、修正にかかる時間も短くなります。
その分、最終的な完成精度に集中できます。
レンガタイルの製造メーカーでありながら、施工管理的な視点で話をすることに違和感を持たれることもありますが、材料・設計・施工は、本来切り離して考えられるものではありません。また、性格上30年以上そうしてきたからです
現場が始まり、所長(現場監督)と打ち合わせを重ねる中で、私はこの現場が比較的スムーズに進むだろうと感じていました。
それは相性や感覚的なものではなく、設計者の意向を理解したレンガタイルを仕上げる指揮官として捉えている監督だったからです。
材料が入るタイミング、職人が入る順番、判断が必要になるポイント。
その全体像を共有できていたことが大きかったと思います。(これは事実、通常当たり前では決してありません!)
私たちは、いわゆる通常の工務店傘下の協力業者とは少し立場が違います。
そのため、現場によっては材料屋として扱われたり、判断権限のない存在として距離を置かれることもあります。
しかしこの現場では、レンガタイルの専門協力者として、必要な判断を求められる立場で関わることができました。
上下関係の問題ではなく、役割が整理されていたから、無駄な摩擦が生まれなかったのだと思います。
施工が進む中で、細かなイレギュラーはいくつも起きました。
下地の状態による微調整、割付のわずかな修正、材料の使い分け。
ただ、それらは問題にはなりませんでした。
設計段階で一度、頭の中で施工を終わらせ、判断軸を共有していたからです。
現場では、すべてを事前に決め切ることはできません。
だからこそ、考え方だけを共有し、最終判断は現場で完結できる余地を残す。
今回の現場では、私とタイルの職長で判断できる範囲が明確だったため、工程を止めることなく進めることができました。
準備ができていれば、現場でやることは減ります。
迷いも、説明も、手戻りも最小限で済む。
限られた日程の中で、施工難易度を含めて予定通り終えられたのは、現場で頑張ったからではなく、事前に考えるべきことを考え切っていたからだと思っています。
施工終盤、仮設の壁面穴(要するにダメ工事)ごくわずかな補修が必要な箇所が出ました。
数としては本当に数枚です。
職人に改めて段取りを組んでもらうほどのものではなかったため、その部分は自分で貼ることにしました。
職人に余計な手間をかけたくなかった、というのが正直な理由です。(私自身現場で30年以上やってきているので職人でもあるとも思っています)
それは同時に、現場で働く人への私なりの敬意でもありました。
タイルを一枚ずつ貼りながら、設計者との打ち合わせや、割付を詰めた時間、現場で交わした短い確認を思い返していました。
材料をつくるだけでは、ここには辿り着けません。
図面を描くだけでも足りない。
現場に入り、判断し、責任を引き受け、最後まで関わる。
そのすべてが揃って、初めて壁面は成立するのだと感じました。
竣工写真を撮るとき、私は必ず少し立ち止まります。
目地の流れ、光の当たり方、距離による見え方。
頭の中で考えていたものと、実際の壁面との差を確認する。
この現場では、「整然とここまで来た」と素直に思えました。
設計者の意図があり、施主の納得があり、現場の判断が積み重なった結果としての壁面でした。
写真を撮りながら、私はあらためて、レンガタイルが好きなんだなあーと感じていました。
素材としてだけではなく、それを使って建築が立ち上がっていく過程そのものが、好きなのだと思います。
この仕事は、一本の相談から始まり、設計、現場、竣工まで途切れることなく続きました。
材料を納めて終わる仕事ではありません。
設計者の判断を軽くし、施主との合意形成を助け、現場が止まらずに進むよう支える。
それが、私たちがレンガタイルを通して担っている役割です。
初めて本格的にレンガタイルを使う設計者が、もし一人で抱え込んでいるなら、考えるべきことはまだ整理できるはずです。
設計と施工のあいだにある判断を一緒に整理し、最後まで並走する。
そのための存在として、私たちはここにいます。
監督さんありがとう!