レンガタイルという素材は、建築の内外装において、いまなお重要な位置を占める仕上材のひとつです。
かつては「高級感」を象徴する素材として語られることが多くありましたが、現在ではむしろ、素材感・陰影・揺らぎ・経年変化といった、空間の質をつくる要素として再評価されているように感じます。
加えて、耐久性・耐候性といった性能面においても、長期にわたり建築を守る被覆材としての優位性は、長年にわたり確かめられてきました。
一方で、レンガタイル全盛期から世代交代が進んだ現在、レンガタイルは「素材」ではなく「量産された建材」として認識されている場面も少なくありません。
本来、土・成形・乾燥・焼成という不安定要素を内包した極めてプリミティブな素材であるにもかかわらず、その特質が伝わる前に、標準化された製品群のイメージだけが先行してしまっているようにも感じます。
多くのメーカーや商社が「売れる商品」を前提に商品開発を行う以上、どうしても無難で平均化された表情へと収束していきます。
それは決して悪いことではありませんが、建築家がプロジェクトごとに思い描く「この建築にしか成立しない外壁イメージ」とは、しばしば距離が生じます。
実際、設計者の多くは、対象プロジェクトの思想から導かれた外壁像を、頭の中に明確に持っているはずです。
小面積であれば既製品の選択も成立しますが、100㎡を超えるような壁面になると、脳裏にある素材感そのものを具現化したいという欲求が生まれるのは自然なことだと思います。
住宅メーカーの規格住宅であれば標準品選択という判断も理解できます。
しかし、建築家のプロジェクトは本質的に受注生産です。
単なる「建材のセレクト」だけで完結することは少なく、モックアップを作成した段階で違和感を覚え、採用を見送るという経験をされた方も多いのではないでしょうか。
標準品から特注へと意識が向かうとき
では、どのような場面で「特注」という選択肢が現実味を帯びてくるのでしょうか。
1|建築全体の思想から外壁の責任が重くなるとき
空間構成や素材構成に明確なコンセプトがある場合、外壁レンガは形状・色・テクスチャーのすべてにおいて、強い必然性を求められます。周囲の素材との関係性から逆算すると、既製サイズ・既製色では成立しないケースが多くなります。
2|素材そのものに物語性が求められるとき
特に個人邸では、「あなただけの素材」であることが重要になります。
経年変化を含め、時間とともに価値が深まる素材であるかどうかも、大切な判断軸です。
3|外壁自体に“表現”を持たせたいとき
凹凸、目地の陰影、張りパターンによるリズム。
織物のような壁面構成や、石材とは異なる柔らかな重厚感など、レンガタイルならではの表現領域があります。
4|役物やディテールを含めた造形を行いたいとき
出隅、窓台、笠木、特殊形状などを組み合わせることで、壁面の完成度は大きく変わります。
湿式レンガタイルは、こうした造形的な展開と相性の良い素材です。
5|既成概念を壊す表情を求めるとき
白掛け、どぶづけ釉、古色調など、新築時から“古び”を内包した表情を持たせる手法も、近年多く見られます。
日本における「タイル観」を更新する試みとも言えるでしょう。
標準品が「答え」になりにくい時代
現在の市場では、昔のように大量在庫を持つ工場は減り、標準品であっても実質的には注文生産であるケースがほとんどです。
であれば、十分な検討期間が確保できるプロジェクトでは、最初から特注として考える方が合理的な場面も増えています。
そもそも標準品は、特定の建築家の思想を前提に設計されているわけではありません。
深い思想を前提に作り込むには、相応の手間とコストが必要になります。
レンガタイルは、「焼いたら完成」する素材ではありません。
建築空間の一部として練り上げられて初めて完成する素材です。
だからこそ、建築イメージがある程度固まった段階から検討が始まるのが理想です。
では、何を決めていくのか
特注とは、「形と色を選ぶこと」ではありません。
設計者の意図を製作者と共有し、翻訳していくプロセスです。
概算予算の把握と並行して、以下の要素を整理していきます。
① 大きさ・形状
窯の種類や台車寸法により、製作可能寸法には制約があります。
湿式押出成形の場合、口金交換で対応できる場合もありますが、金型製作が必要なケースもあります。
金型の有無はコストに大きく影響するため、初期段階での確認が重要です。
② 色
湿式レンガタイルにおける最大の魅力であり、最大の難所です。
原料土は天然素材であり、掘削ロットごとに性状が異なります。
焼成条件(温度・酸化/還元)や顔料添加の有無によって発色は大きく変化します。
小さな試作と、本焼きの大窯では結果が異なることも珍しくありません。
狙いの色に近づけるためには、製造技術者との対話が不可欠です。
③ 厚み
標準は15mm前後が多いものの、テクスチャーが深くなるほど厚みは増します。
施工方法・重量・下地条件とも関係するため、意匠と同時に検討が必要です。
④ 表面テクスチャー
フラット面から、荒らし、傷付け、化粧土付け、手加工まで幅広く対応可能です。
湿式素材は乾燥前の加工性が高く、意匠表現の自由度が非常に高い素材です。
⑤ 役物
接着役物が主流になりつつありますが、成形役物には独特の説得力があります。
水切り、窓台、笠木、段鼻など、早期から検討することで表現の幅が広がります。
⑥ 無釉か、施釉か
特に注意したいのが「薄釉レンガ」です。
薄い釉薬で土の細胞構造を覆うことで、湿式レンガ本来の素材感が損なわれる場合があります。
知った上で選択するのと、知らずに使うのとでは意味が異なります。
最後に
特注レンガタイルとは、自由度の高い素材を扱う行為であると同時に、
不確実性と向き合う行為でもあります。
しかし、そのプロセスの中でしか到達できない壁面が存在します。
もし、頭の中にぼんやりとした壁のイメージがあるなら、
それは「特注を検討すべきサイン」かもしれません。
そのイメージを、言葉にし、図にし、素材へと翻訳していく。
その伴走が、私たちの役割です。