特注タイル外壁は湿式レンガ

ぬきだし

特注タイル。要するに、現場の意匠プランに合わせてその現場専用の外壁タイルを作ることを言います。もちろん、カタログには掲載されていないようなものを作り出すための「特注」です。独自の建築思考をリードしていただきながら、担当技術者チームとともに世界で1つだけのオリジナルデザインタイルとなります。

特注タイルのデザインといっても凝った形状や寸法に特注の重点を置くわけではありません。色の選択、色の構成、テクスチャーである肌感こそ、特注タイルの基本であり、独自の味わいにつながります。お客様である施主・建築家の思考を焼き上げまでの工程を経ながら、施工者とともにその技術を集約して創り上げていく大変特別感が漂う作業が、特注タイルの重要点だと思います。

成形方法について

さて、その特注タイルですが、形やサイズ、色など、お客様ご要望の様々な焼き物の製造技術を利用しての特注というものが考えられます。まず特注タイル自体の種類について考えてみましょう。

種類を考えるにあたって、どうしても最初に分類すべき内容は、タイルの基本的「つくりかた」を考えていかざるを得ません。特注タイルとしてまず、つくり方で分類し、材質の性質、機能を考えなければいけません。

まず、第一に特注タイルの成形方法を考えてみましょう。タイルの成形方法には主に下記の2種類があります。

1. 押出成形―含水率の高い素地原料を、押出成形機によって板状に押し出し所定の形状・寸法に切断して成形する方法。※特注タイルでは、この次の工程で二次加工を手作業でほどこしたり重要な工程となります。

2. プレス成形―微粉化された含水率の低い素地原料を、高圧プレス成形機で所定の形状・寸法に成形する方法

吸水率でのタイルの呼び方

さらに、タイルの分類方法で吸水率によってそれぞれ異なる呼び方がついています。

素地に透明性があって硬く、叩くと金属製の清音を発する磁器質。透明性はないけれど、焼き締まっているせっ器質。そして、多孔性で叩くと濁音を発する陶器質。吸水率でこの3つに分類されていたのです。

しかし、2008年のJIS改正によって測定方法が自然吸水から強制吸水へと変更され、慣れ親しんだ旧呼び名であった磁器質、せっ器質、陶器質の呼び名からⅠ類、Ⅱ類、Ⅲ類という呼び名に変わってしまいました。

特注タイル含めレンガタイルを専門に扱う私などは、「せっ器質」という呼び名と材質感の感じる言葉の響きが好ましく、特注タイルをつくる上では、ついつい使ってしまいますけどね。

ちなみに、旧表記のせっ器質は、吸水率5.0%以下、磁器質は、1.0%以下という規程でした。現行表記のⅠ類は、3.0%以下、Ⅱ類は10.0%以下の吸水率です。随分と水分量が変わったと感じませんか?

そうすると、特注タイルを使って外壁の適度な柔らかさを演出するには、現行表記のⅠ類、Ⅱ類での押出成形(湿式製法)による特注タイルのレンガ系の表情がとても心地良い質感だと私は思うのです。打てば金属のような澄んだ音がするほどに硬く、磁器化しすぎた粘土よりも、しっとりして、それでいて土であることを感じさせる手触り感を残し、やや湿気を吸う程度の土味感が特注タイルの表情として心地良いのです。それが、わざわざ「特注タイル」としてオーダーするところの重要な意味があると思います。

こういった感覚的なことは、主観だと言われてしまいそうですが、確かに数百トンプレスの型起こしの特注タイルよりも、粘土をトコロテン式に程よい圧力で抜き出した土感たっぷりの風情の特注タイルの方が、焼成後の素材感が心地良いのは確かな事なのです。

もちろん、型起こしの特注タイルは統一性があり、それを求める人にとっては良いものに違いありません。しかしプレスにすると、押された表面のツヤの程度や、粘土でも表面細胞が潰れて息苦しくなっている気さえしますね。確かに顕微鏡で見比べてみると、せっ器質レンガタイルの表層は、水分を保ったり吐き出したり呼吸しているような大変微細なものですね。土は生きている、そしてその土から作られた焼き物であるレンガタイルも生きている、と感じさせます。だから、「特注タイル」という特別な世界感がここに存在するのです。

モザイクタイル、プレスモザイク

通常のモザイクタイルでは、磁器質施釉が一般的なものなのですが、バブル期には一時的に、釉薬を使わない製品である磁器質無釉のプレスモザイクが相当流行った時期がありました。

肉眼でみたモザイクの表情が、同じ施釉のプレス成形からすると無釉土の様々な粒子の固まった石材的な結晶の表情がマンションデベロッパーの新しい物好きな眼にとまった時期であったかもしれません。

しかし、現存するメーカーや工場もなくなり、コスト重視の競争から無釉のタイルは消えていってしまったのです。近い眼線でのこだわりで、選択されていたとしても、遠方の壁面全体からイメージする素材感が、その一歩先に進化することができなかったのは事実であろうと思います。

レンガタイルについて

その点、レンガタイルの微妙なバランスでの硬度と土感は、太陽光線を浴びても、なぜか全て反射するだけではなく、母なる大地のように優しく受け止め、部分吸収したマットな表情すら我々に与えてくれているのも土から生まれた焼き物の良さなのです。それがまた、私たちを魅了してやまない点なのかもしれません。

特注タイルは、当然のごとく他のものとは型も異なる場合が多いです。特注の金型を製作する上でも、乾式プレスの金型と押出成形の金型代とは、膨大な費用差が生じることもよく知られていることです。もちろん押し出し(湿式)の方がはるかに安くなります。マンションのように、平米数の多いプロジェクトでは、特注タイルとして難なく数百万の金型代を吸収できる現場もあるでしょうけど、昨今では難しいでしょうね。

金型代のイメージとして、少し例えは違いますが、たい焼きの金型とところてんの木型ではその作りやかかる金額にかなり差がある、というのを考えると納得していただけるのではないでしょうか。

特注タイルとして生産する場合に、建物の役割や、使用用途など一概に、ひとくくりでは建築における素材への狙いは語れません。しかし、手作り感や技工法、表情の質感など明らかに求めていく場合には、数百トンプレスで固めて、画一的なタイルの形にしてしまうようなプレス成形では、素材への期待度は低く、抜き出し湿式製法独自のワイヤーカット面のような粒子の立上り感は全くなくなってしますのです。

上記でご説明しましたように、湿式成形では、特注タイルに好都合な手法がたくさん可能となるのです。押し出した柔らかな素地の皮をむいたり、叩いたり、ひっかいたり、それも不規則に、鞣したり、土をまぶしたり、口金だけで形状を変えたり。

まだまだあります、ローラーを掛けたり、凹凸の器具で跡を付けたり、小学生の粘土細工のように考えられるあらゆることが可能なのです。それも適度な柔らかさゆえに可能なこと。含水率の高いタイルの素地は、まさに変幻自在でわくわくするような可能性の宝庫なのです。テラコッタの創作陶壁など特殊な焼き物形状を生産する場合などには大変適していま

テクスチャー

このように、同じ原料から成形する時に、抜き出しの厚みを変えたり、成形後の乾燥前の柔らかい生地に粘土加工を施したり、どんどんアイデアが出てくるのも湿式レンガによる特注タイルの製作上の楽しさなのです。例えば、ちょっとした絵や文字のようなものだって乾燥前であれば簡単に彫れますし、まさに幼いころに慣れ親しんできた粘土細工そのものなんです。特注タイルを一度経験すると次々と壁への深い興味が湧いてきて、建築の表層材への好奇心がますます増幅されてくる、建築家好都合の素材だと思います。

粘土をこね、のばし、ヘラやいろいろな道具を使い、工夫して友達とは異なるものを作り出す。そしてその出来上がりが納得のいくものであれば、「見て見て!」と持ち回りたくなるほどの興奮を感じたあの日がふと心をよぎります。湿式レンガを見ていると、粘土細工の楽しみを知っている人ならば誰もが、アイデアに満ち満ちた、幼い頃の創作意欲が戻って来るような気持ちになると思います。特注タイルってもっと身近なことで、楽しいですよ。

建築の外装材にこんなに潜在的な可能性を秘めて、特注タイルの製作プランとして考えられる表現力豊富な材料は、これを置いて他にはそう簡単に存在しないのではないですか?それも、1,250℃前後の高温で焼成された耐久性すぐれた素材に仕上がっているのですから。

そして、この焼成によっても、その表情は変わって来るのです。焼き物の話をする際に、酸化で焼いた方が良い、還元が良い、というような話が出ることがあります。焼成をする時の炎には、いろいろな変化が起こります。そしてこの炎の性質によって焼き上がりの色が変わってくる、というのは焼き物をする人は皆さんご存知であると思います。ここに、特注タイルの本来の面白さがあるのです。

簡単に説明をすると、窯で焼く際に、十分な酸素が供給された完全燃焼状態が酸化焼成、酸素をシャットアウトされ、不完全燃焼状態が還元焼成となります。その色の違いは、ろうそくの炎をよく見ると分かります。外側はオレンジ、そして赤、中心部は青くないでしょうか。外側が酸化して明るい色合いが出た状態、そして中心部が不完全燃焼状態で青い色合いとなっています。これが酸化・還元の簡単な基礎説明ではありますが、特注タイル焼成時のみならず、レンガタイルを焼く際にも空気の量や窯中の環境を操作して焼成します。その焼成具合が、化学反応し、色合いを決定づけてくれるのです。

酸素の量、気温、窯の温度、そして素地に含まれる鉄などの成分とその量・・・いろいろなものが影響して、独特の味わい深い色の変化が起こります。還元焼成されたレンガタイルのグラデーションは、意識しても完璧に同じものを作り出すことができません。まさに自然からの贈り物でもある、と思えてきます。その色合いをどう醸し出すかを研究するのも醍醐味と言えます。思うような色が出来上がった時の喜びはひとしおです。

建築という作業について

建築は、決してあるもの、現存する素材のコーディネート作業では無いと思うのです。建築はむしろアートではないかと思うのです。ただパズルのようにあるものを組み合わせて作り出していくのではなく、創造性を常にもって、考えて自ら生み出してチャレンジしていかねば、建築においての喜びも存在しません。タイルを創ることにおいても、同じ意識の上でおこなわれるのです。「特注タイル」は、それを意識して、特別にあつらえるものなのですから。

建築は、決してあるもの、現存する素材のコーディネート作業では無いと思うのです。創造性を常にもって、考えて自ら生み出してチャレンジしていかねば喜びも存在しません。

そうした考え方に、十分に適応してくれる素質をもっているのが、湿式製法のレンガタイルではないでしょうか? その焼成工程、そして施工での工夫、イメージ実現への仕上がりまでにいろんな壁面の表情を見せてくれますし、また、その表情を引き出すためにはどうしたらいいか、何を組み合わせたら良いのか、その付加価値をあげるにはどうすべきなのか、創作意欲をどこまでもそそります。

心から「これだ!」と思える特注タイルに巡り会えるまで、ぜひ十分試してみてください。そのうえで仕上がった特注タイルは、きっとその熱意が伝わり、特別感を伝えて人の心を動かすに違いありません。